東京地方裁判所 平成4年(ケ)365号 決定 1992年3月05日
当事者 別紙目録のとおり
主文
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
債権者は、別紙物件目録記載の不動産について、第三取得者から滌除の通知を受けて、本件の増価競売を申し立てたものである(担保権・被担保債権・請求債権は別紙目録に記載のとおり)。
当裁判所は、以下の理由により、この申立を却下すべきものと判断する。
一第三取得者が滌除の通知をするにあたっては、不動産の登記簿謄本(民法三八三条二号)を添付する必要がある。そしてこの「謄本」とは、登記官が法令に則って作成した謄本を意味し、私人の作成した単なる写しでは足りないものと解される(名古屋控訴院明治三九年八月一五日決定、法律新聞三八一号九頁)。その理由は次のとおりである。
(1) 滌除の通知を受けた債権者は、その申出を承諾するか、それとも増価競売の請求をするかを、一か月という短い期間の間に判断しなければならない。そのためには、不動産の登記簿を確認する必要がある。滌除の通知に不動産登記簿謄本の添付を要すると定められているのは、そのためである。
(2) ところが、私人の作成した単なる写しが「謄本」として添付されている場合、それが登記簿の原本の記載を正確に写したものかどうかは、債権者にとっては分からないことである。そしてこのことは、手書きによる写しではなくて機械的方法によるコピーが添付されている場合であっても同じことである。なぜなら、登記事項の追加・削除・変更されたコピーを作成することは可能であり、現実に送付されたコピーにそのような追加・削除・変更が加えられていない保障はないからである。
(3) したがって、そのような単なる写し(コピー)を受け取った債権者としては、念のため自らも登記簿の原本または登記官の作成した謄本にあたらなければ、安心して判断できないことになる。滌除の申出を承諾するか否かを判断するために債権者に与えられている期間がわずか一か月であることも考慮すると、このような負担を債権者に負わせることは相当でない。
二本件申立書によれば、本件の滌除通知には登記官の作成した不動産登記簿謄本の添付がなかったというのであるから、上記の滌除通知は無効である。
三無効な滌除通知に基づく増価競売の申立であっても、申立債権者が望む場合には、通常の担保権実行としての不動産競売手続を開始すべきである。しかし本件の申立債権者にそのような希望はなく、滌除が無効ならば本件申立を却下するよう求めている。
(裁判官村上正敏)
別紙当事者目録
債権者 総合住金株式会社
代表者代表取締役 大槻章雄
債権者代理人 柄沢孝勲
債務者 株式会社エヌ・ケイ・ファイナンス
代表者代表取締役 渋井和夫
譲渡人 ダイヤ商事株式会社
代表者代表取締役 荻野卓樹
第三取得者 株式会社創新
代表者代表取締役 岡田泰雄
別紙担保権・被担保債権・請求債権目録<省略>
別紙物件目録<省略>